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岡山地方裁判所 昭和42年(ワ)442号 判決

原告

岡山シャープ販売株式会社

代理人

一井淳治

被告

小野敦子

被告

吉田朝次

右両名代理人

木島次朗

右小野代理人

在里三芳

主文

1、被告小野敦子は原告に対し、別紙目録一の(一)の(1)、(2)記載の建物につき、別紙目録一の(二)の(1)記載の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

2、被告吉田朝次は前項の抹消登記手続をすることを承諾せよ。

3、被告両名との間で、別紙目録一の(一)の(1)、(2)記載の建物につき、別紙目録二記載の根抵当権の効力がおよぶことを確認する。

4、被告吉田朝次に対する仮処分登記の抹消登記手続若しくは仮処分執行の許されないことを求める訴を却下する。

5、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

1、被告両名は別紙目録一の(一)の(1)、(2)記載の建物につき、別紙目録一の(二)の(1)記載の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

2、被告吉田は別紙目録一の(一)の(1)、(2)記載の建物につき、別紙目録一の(二)の(2)の仮処分登記の抹消登記手続をせよ。

3、被告両名は、別紙目録一の(一)の(1)、(2)の記載の建物に対し、別紙目録二記載の根抵当権の効力がおよぶことを確認する。

4、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

右2の請求が容れられないときは予備的に、

被告吉田朝次より被告小野敦子に対する岡山地方裁判所昭和四〇年(ヨ)第三〇三号不動産仮処分事件につき、昭和四〇年一一月三〇日為された仮処分決定に基づく、別紙目録一の(一)の(1)、(2)記載の建物に対する執行は、これを許さない。

との判決を求める。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二  主張〈略〉

第三  証拠〈略〉

理由

一、登記簿上、被告敦子所有の別紙目録二の(二)の建物につき、同目録二の(一)の根抵当権設定登記が存在することは当事者間に争いがない。〈証拠〉によると、原告会社代表取締役であつた山本康弘は、小野無線の代表取締役社長小野静男、専務取締役で被告敦子の夫である小野昭己に対し、商取引上の債務の履行を担保するため岡山市磨屋町小野無線本社所在の土地建物(途中で被告敦子の所有とわかつた)に根抵当権の設定を求めてたびたび話合つた末、その承諾をうけ、その登記済権利証を預つたこと、中国シャープ月販株式会社岡山出張所々員長谷川統祥は山本から右登記手続を頼まれ、右権利証に基づき根抵当権設定契約書その他の必要書類を作成し、これを小野無線の本社に持参し、被告敦子にも面会のうえ同人から所要の個所に捺印をうけ、前記登記手続を終えたことが認められる。右事実によると、昭和三九年一〇月一二日ごろ原告と被告敦子間に前記根抵当権設定契約が成立したことを認めることができる。被告敦子本人尋問の結果中右設定契約は義父静男が被告敦子に無断でしたとの部分は前記各証拠にてらし信用しがたく、ほかに右認定を左右する証拠はない。

二、本件根抵当権の設定された当時、その目的物件たる別紙目録二の(二)の建物のうち、(2)、(3)の付属建物は存在せず、(1)の主たる建物(A建物)に接続して別紙目録一の(一)の(1)、(2)の建物(B、C建物)が存在していたことは当事者間に争いがない。ところで、原告はB、C建物の部分はA建物に附加され一個の建物となつていると主張し、被告はB、C建物はA建物とは別個の独立した建物であると主張し争いがあるので判断する。

1、先ずB、C建物建築の経過について考えてみるのに、〈証拠〉によると、別紙目録二の(二)の建物は同二六年五月二日横山武雄のため所有権保存登記されたうえ、即日岡野広に所有権移転登記されていること、小野無線は小野静男、昭己親子が経営していた同族会社で、岡山市細堀町において家庭電器製品卸小売業を営んでいたところ、被告吉田から立地条件に恵まれている本件土地建物を買取り営業所を移転することをすすめられたが、資金の関係で被告敦子において、同二七年八月五日岡野からこれを買受け同月六日所有権移転登記を経たこと、間もなく小野無線は被告敦子から右建物を賃借し、階下を店舗とし階上を倉庫兼店員の居室とし、静男や昭己夫婦は通勤して電器製品の販売に従事したが、狭いうえ通勤の不便があるため、被告敦子は夫昭己らと相談のうえ、右建物の裏側(西側)に店舗兼居宅を建て既存のA建物を改装することを計画したこと、当時A建物の裏側に別紙目録二の(二)の(2)、(3)の付属建物が残つていたのを取りこわしたか、或いは既に崩れてなくなつていたか必ずしも明らかでないが、いずれにしても、同二七年一二月ごろ大工田野友市らを雇い工事費約八〇万円をかけて、A建物から約一メートル離れた場所にB建物を建築したこと、さらに一、二月後A建物の一部に出ばつていた便所などを取りこわし、A建物全部を約一メートル後方に引くとともに、A建物の土台を約〇、六メートルあげてA、B建物の一階天井の高さを揃え、双方の建物の接する部分の壁を取り払い、支柱を入れて補強したうえ、B建物階下のうち約二分の一を土間とし、A建物階下土間と一体の店舗とし、残りを事務室と三畳位の居間とし、A建物の二階に登る階段を取りはずし、B建物の二階への階段のみにより上下できるように改造したこと、同二九年八月ごろ被告敦子夫婦は細堀町の居宅からB建物に移つたが、静男夫婦はなお通勤を続け不便でありかつ店舗拡張の必要もあて、被告敦子はさらに都市計画による仮換地で広くなつたB建物裏の空地に居宅増築を企て、同三二年初ごろ前記田野友市らに依頼し工事費約一二〇万円をかけてB建物に接続してC建物を建築し、これにともないB建物階下の事務室居室を店舗の土間とし、C建物階下の一部を事務室兼応接室とする改造工事をしたことをそれぞれ認めることができ、格別反対の証拠はない。

2、〈証拠〉によると、各建物部分の構造、利用状況等につき、次の事実が認められる。

(一)、屋根の構造について見るのに、別紙見取図のように、A、B、Cの建物部分は三の棟よりなつており、棟の方向はA建物は南北、B、C建物は各東西であつて、その高さはA、B、Cの建物の順に高くなり、使用されているセメント瓦も順次良質のものが葺かれているが、A建物の正面および左右を取り囲む装飾用の壁があるため、路上より各屋根の区別を認めることはできない。

(二)、各建物の外廻りについて見ると、出入口としては、A建物の正面が通称柳川筋の県道に面する間口約六、四メートルの店舗であるほか、C建物の西側台所土間に裏通に面する勝手口があるのみである。もつとも、B建物の北側にかつての勝手口と見られる部分があるが締切られ使用されていない。北側露地に面する外壁はセメントモルタル塗りで各建物毎の区分はなく、一見一戸建の建物のように見うけられるが、その塗具合、変色の度合いにより新旧三段階に区別することが可能である。

(三)、各建物の接続部分の構造について見るに、A、B建物の一階にあつては、南側および北側外壁の柱は壁中に隠されはつきりしないが、中間の柱等は取り去られ、代りに鉄の支柱二本と南側壁に接する部分に角柱一本が存在し、両建物の接続部分を支えているのみである。その二階にあつては、B建物自体の柱、鴨居、敷居は存在せず、A建物の既存の柱五本、鴨居、敷居を利用し、B建物部分を継ぎ足した構造である。また、B、C建物にあつては、一、二階とも、主要な柱、鴨居、敷居はすべて既存のB建物のものを利用し、必要に応じて鴨居と敷居の間に普通の柱に代え半割の用材をはめこみ使用し、B建物にC建物を継ぎ足した構造をとつている。

(四)、各建物の内部について見るに、別紙見取図のとおり、一、二階とも表から裏まで格別の隔壁のない一個の店舗兼居宅として利用されている。すなわち、階下はA、Bの建物部分はコンクリートの土間、ベニヤ板張りの壁面、ダイヤボード張りの天井で統一された店舗であり、C建物の部分は事務室兼応接室、便所、風呂場、台所、居間よりなり、二階はA、B建物部分は営業用物置又は従業員居室などに使用される各二部屋、C建物部分は家族の居住用に使用される三部屋よりなつている。

(五)、以上のとおり認められ、格別反対の証拠はない。そして、〈証拠〉によれば、右(一)ないし(四)の状況は本件根抵当権設定当時から現在までほとんど変つていないことが認められる。

3、〈証拠〉によると、原告は本件根抵当権設定に際し、抵当物件の価格を二千万円と評価して本社の禀議を経たこと、根抵当権設定交渉にあたり、小野無線の本社のある磨屋町所在の土地建物ということで終始話合われ、関係者の間に建物の区分について格別意識されていなかつたこと、当時B、C建物部分は未登記であり、A、B、Cの建物は岡山市の固定資産課税台帳のうえでは家屋番号一五番二、増築による床面積五六、六四坪として登載され課税されていたことが認められる。〈証拠判断略〉右事実によると、本件根抵当権設定当時物件の範囲は、本件土地とその地上所在の店舗兼居宅の全部であると考えられていたと見るのが合理的である。

4、〈証拠〉によると、被告敦子は義父静男死亡後間もなく被告吉田から静男らに対する貸金債権の履行を確保するためB、C建物を売渡担保とすることを求められ、B、C建物につき所有権保存登記手続の準備をし、必要書類を集めており、その登記申請をすることができたはずであるのに(実際にその申請をしたが独立性に疑問があつて受理されなかつたのかどうかは明らかでない)実際は被吉告田との馴れ合いで原告の根抵当権の妨害をする目的でしたと見られかねない処分禁止の仮処分申請による嘱託登記の方法によつて所有権保存登記を経たことが認められる。〈証拠判断略〉。

5、以上の事実によれば、本件根抵当権の目的物件である主たる建物(A建物)が、そのほか付属建物として、床面積14.01坪(46.6445平方メートル)の平家建居宅、1.76坪(5.818平方メートル)の平家建物置がある旨登記されていることは別として、床面積一、二階とも七、五六坪(24.9916平方メートル、ただし固定資産課税台帳上では一、二階とも8.3坪(27.4379平方メートル)と表示されている)にすぎないのに対し、B建物は一、二階とも9.06坪(29.9503平方メートル)、C建物は一階14.01坪(46.6445平方メートル)二階12.72坪(42.0495平方メートル)であつて、総床面積において、B、C建物部分はA建物の約三倍もあり、同一の建物とするには登記簿上の表示と実際との間に違いがありすぎるきらいがあり、かつ屋根の構造よりすれば別棟の建物と見られなくもない。しかしながら、前記諸事実を合せ考えると、A建物はその規模にもかかわらず、幹線道路に面し店舗ないし事務所として極めて優利な立地条件を備えているところ、B建物は構造的にA建物に接合されているのみならず用法的にも店舗兼居宅として一体として利用され、全体としてA建物に付加され一体となり、これを離れて独立の建物としての機能を有しないと見るのが相当である。またC建物は台所、便所、風呂場等住居として一応独立の機能をはたしうる設備があり、A、B建物を離れて居宅としての独立性を全く失つたとまでいえないにしても、構造的にB建物に接合しており、出入口としては裏通りに面する勝手口があるにすぎず、建物の用法、機能の点から見ても、B建物同様表通りに面する店舗兼居宅であるA建物に付合しその一部となり、取引上の独立性を失つたと認めるのが相当である。

三、してみると、本件根抵当権の効力は別紙目録二の(二)の建物の一部であり、独立して所有権の目的となりえないB、C建物の部分にも当然およぶということができる。ところで、B、C建物部分につき原告主張のとおり、被告敦子のための所有権保存登記ならびに被告吉田のための処分禁止仮処分登記がそれぞれ存在することは当事者間に争いがない。そして、B、C建物部分が独立して所有権の目的となることができない以上、原告は被告敦子に対し、根抵当権者として、既存の建物の表示の更正登記手続をも請求できる関係にあるわけである。してみると、被告敦子は原告に対し、二重の所有権保存登記として許されない本件保存登記の抹消登記手続に協力する義務があり、また被告吉田は右抹消登記につき登記上利害の関係を有する第三者として、原告の抹消登記申請を承諾する義務があるというべきである。

四、以上の次第で、被告両名に対し、B、C建物の部分につき根抵当権の効力がおよぶことの確認、被告敦子に対しB、C建物の保存登記抹消登記手続の請求、被告吉田に対し右抹消登記申請につき承諾することの請求(原告は被告吉田に対しても抹消登記手続を求めているがその趣旨とするところは抹消登記につき承諾を求めているとみるのが相当である)はいずれも理由があるからこれを認容する。被告吉田に対する仮処分登記の抹消登記手続ならびに予備的に仮処分執行の不許を求める請求は、保存登記の抹消登記手続が認められる以上これを求める利益がないから右訴を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。(五十部一夫)

目録一、二〈略〉

見取図〈略〉

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